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HbA1c IFCC法

IFCC法の果たす役割

IFCC HbA1c/WG

 往時のHbA1c測定は各国多様で、アメリカを中心とするDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)対応のNGSP値、日本のJDS/JSCC (以下JDS) 値、スエーデンのMono-S値だけが指定比較対照法(DCM、Designated Comparison Method)に準拠し測定され、他はそれぞれである。準拠する測定でも、DCMそれぞれの測定対象とするグリコヘモグロビンに化学物質としての定義がなくHbA1cと同一表示されてもその内容が異なるので、同試料の測定で一致した値が得られない。このような状態は国際的にも学術的にも極めて不都合なことであった。
 1994年に発足したIFCC(国際臨床化学連合)のHbA1c標準化作業部会 (IFCC-HbA1c/WG)は、HbA1c測定の世界統一的標準化を目指した。測定対象物質のグリコヘモグロビンを化学的に定義し、その測定基準物質として精製純粋標品を用意し、分析化学的に裏付けられた測定法(IFCC法)を開発し、更に、JCTLMで承認されたこの測定法の維持管理と既存のIFCC法に対する整合性の確認とを目的とする国際的基準測定施設網を設定した。
 2022年現在、IFCC法の基準測定認証施設は、フランス-1、ドイツ-3、イタリア-1、オランダ-2、アメリカ-2、日本-3、中国-3、韓国-1の計16施設が認証されている。また、ブラジル、インドの各1施設が認証施設候補となっている。さらに、DCMによる測定施設は、NGSP値(アメリカ-2、オランダ-2、日本-1)、JDS値(日本-3)である。
 なお、これらの測定施設はホームページ(https://www.ifcchba1c.org/)で一覧できる。

IFCC法に依るHbA1c標準化

 IFCC法では、HbA1cをヘモグロビンβ鎖のN末端アミノ酸バリンにグルコース分子が共有結合したヘモグロビンと定義し、精製した純粋HbA1cとHbA0を6種に混合した標品を標準物質(Pcal, Primary calibrator)とし、HPLC/MS法かHPLC/CE法を用いて設定されたSOP(基準測定操作手順書)に従って測定する。具体的には、IFCC-HbA1c/WG基準測定施設はコーディネーターの配布するIFCC値測定試料とDCM測定試料とを測定し、コーディネーターの集計結果をIFCC-HbA1c/WG会議で評価し確認する。
 IFCC値と各DCM値は線形関係にあり、DCM値をIFCC値として表示出来る事が確認され、IFCC値でHbA1c測定の世界統一的標準化が可能となった。然し、IFCCと別の立場で標準化を進めるNGSPは、グリコヘモグロビン値は臨床的診断を行う上で有用性が裏付けされたHbA1c値であるとし、化学的に裏付けされたHbA1c値であるIFCC値には臨床的裏付けが無く、表示値の変更などに依る無用な混乱を臨床現場にもたらすだけであると主張し、IFCC値表示への移行は容易ではなく、国際標準化は大きな進展がみられないまま年月が経過していた。
 2007年7月、糖尿病に関連した主要学術団体であるADA,EASD,IFCC, IDFの共同声明1))があり、HbA1cの国際標準化は転機をむかえた。それによると今後HbA1cの測定値報告は、IFCCの基準分析法による値IFCC HbA1c(mmol/mol)とIFCC-NGSP変換式によるNGSP HbA1c(%)との両方を併記するように勧告するとなっています。此処にはJDS HbA1c(%)の記載は無いが、日本でのHbA1c測定ではNGSPをJDSと置き換えて読む。すなわち、HbA1cはIFCC法で求めた値(mmol/mol)とIFCC-JDS変換式による値(%)の2つを併記する事になり、IFCC値での国際標準化に向け一歩進んだ。

IFCC値とJDS値

 IFCC法の測定対象HbA1cはヘモグロビンのβ鎖のN末端アミノ酸バリンが糖化されたのも全てと定義され、JDS値の測定対象HbA1cはヘモグロビンのβ鎖のN末端アミノ酸バリンが糖化されたのものみと定義されて、分析化学的にはKO500法DCMとするJDS値が勝っている。IFCC値は、KO500値とほぼ原点を通る比例関係に有るものの、JDS値が1994年当時のHbA1c測定用標準品JDS-Lot1値を出発点としているため、JDS値とは原点を通る比例関係を失っているが一定の線形関係にある筈で、Pcalへのトレースビリティーとトランスフェラビリティーとを失わずに直接JDS値から算出でき、此の逆も可能である。IFCC値とJDS値の関係式を此処では示さない。理由は、IFCC値測定試料とDCM測定試料との測定に検討を要する事項が見つかり、現在検討中のためである。

IFCC表示への今後の対応

 IFCC表示には、NGSPが主張するディメリットが有る一方で、真値に近いHbA1cで統一化された標準化を遂行出来ることに大きなメリットがある。然し、現時点での状況では主要学術団体の共同声明に従って、IFCCの標準化体系を各DCMの拠所とするDCMでのHbA1c表示にIFCC値を付記する事が妥当であろう。
 日本糖尿病学会は、JDS値+0.4をHbA1c値とし、IFCC値付記は時期をみて実施としているが、改善を望む処は大きい。

文献

  • 1) Consensus statement on the worldwide standardization of the haemoglobin A1C measurement: the American Diabetes Association, European Association for the Study of Diabetes, International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine, and the International Diabetes Federation. Diabetes Care 2007;30:2399-400.